あけましておめでとうございます  

 年頭にあたり、日頃のご厚情に深謝し、皆様方のご多幸を心よりお祈り申し上げます。

1.国の医療事故調査制度の運用が開始されてから、昨年(2022年)10月で丸7年が経過しました。
医療事故から学び教訓を生かし医療の質を高めていくためには、各医療機関の管理者(院長)が医療事故調査制度の趣旨を正しく理解し積極的に事故報告・事故調査をしていくことが求められます。
しかし医療機関の中には、多くの病床を抱えていながら、医療事故調査制度の運用が開始されてからこれまで、この制度に基づく医療事故報告を全くしていないところがあります。
医療機関の中で医療事故によって予期しない死亡が起きていても、管理者がそのことを把握できていなければ報告されないままとなります。管理者が把握できたとしても、予期しない死亡には当たらないと判断すれば報告されないこととなります。
医療事故によって家族を失った遺族の立場に立てば、大切なその人の死の真相を知りたいと思うと同時に、今後の再発防止のために教訓を引き出して生かしてほしいと願うことでしょう。国の医療事故調査制度の運用状況について、制度の趣旨に照らしていくつかの改善点があると感じている遺族や医療関係者の方も多いと思われます。

2.日弁連は昨年(2022年)5月10日に「医療事故調査制度の改善を求める意見書」を取りまとめ、厚生労働省大臣等に提出しました。
意見書の中で、我国の医療事故調査制度の運用上の課題として、
(1)医療事故調査制度が十分に周知,理解されていないこと
(2)積極的に医療事故報告をして事故調査に取り組む医療機関とそうでない医療機関とで格差があること
(3)院内事故調査の内容や在り方にも格差があること
(4)司法解剖結果が医療事故調査に反映されていないこと
(5)医療事故調査を実施する医療機関にかかる負担が非常に大きいこと
(6)医療事故調査・支援センターの調査結果報告書が公表されていないこと
を挙げています。
これらを踏まえ、日弁連は国に対し、改善策として以下の6点について提言をしています。
(1)医療事故調査制度を十分に周知して、国民や医療者の同制度についての理解を深めること
(2)医療機関、遺族から相談を受けた医療事故調査・支援センターが、調査が必要であると判断した場合には、当該医療機関に調査の実施を促すことができ、当該医療機関が一定期間内になお調査を開始しないときには、同センターが調査を実施できる制度を創設すること
(3)遺族及び医療事故調査を実施する医療機関に対して、速やかに司法解剖の結果報告書を開示すべきことを通達などで定めて明確にすること
(4)医療事故調査・支援センターが実施した調査結果報告書を公表すること
(5)医療事故調査を実施する医療機関を財政的に支援する制度を創設すること
(6)医療事故調査制度の対象となった事故について無過失補償制度を創設すること
(日弁連のこの意見書に感心のある方は、是非全文をお読みください。)

3.国の医療事故調査制度の運用にかかわる実務を担っている医療事故調査・支援センター(一般社団法人日本医療安全調査機構)は、2022年12月3日(土)に、Webセミナー(研修会)「中小規模の医療機関における医療事故調査の実際と今後に向けて〜地域における支援や協働のあり方を共に考える〜」を開催しました。
このセミナーを拝聴して、中小規模の医療機関が医療事故調査に取り組む際の困難さや抱えている問題状況の一端を知ることができました。また、病院管理者からは事故調査報告書をそのまま遺族に示した場合の懸念が語られました。医事紛争や訴訟を避けたいとの思いがうかがわれました。本来、医療事故調査と被害救済は別のことがらではありますが、医師・医療機関は裁判等を意識しつつ調査報告書の内容をまとめている可能性があります。医療事故調査が公正になされ、そのことが結果的に補償の問題等の解決にもつながっていく制度の必要性を改めて感じました。


今後も医療被害の防止と救済のシステムを構築すべく頑張っていきますので、ご支援・ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

          2023年1月1日
                            加 藤 良 夫



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