あけましておめでとうございます  

 年頭にあたり、日頃のご厚情に深謝し、皆様方のご多幸を心よりお祈り申し上げます。 医療被害の防止と救済に関連する昨年の動きの中から、以下、若干紹介します。
 
1.産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償し、同時に脳性麻痺発症の原因分析を行って、同じような事例の再発防止に資する情報を提供し、産科医療の質の向上を図ることを目的として2009年1月に創設されました。今年の1月、制度開始から満13年を迎えました。2021年6月4日の時点で、この制度の補償対象者は3374件、同年5月末時点の原因分析報告書の作成、送付件数は2881件にもなっています。
2.昨年(2021年)10月17日(日)には公益財団法人 日本医療機能評価機構主催の「産科医療補償診断協力医Webセミナー」が開かれました。私もこのセミナーに参加することができました。この制度のおかげで、これまでに多くの事例が集積され、分析されることにより、分娩事故の実情の一端が明らかになるとともに、再発防止に向けた教訓も得ることができていて誠に意義深い制度だと感じました。やはり、 医療事故の事例を集め再発防止をはかるとともに、被害を受けた方々への補償の仕組みがあることはとても有意義なことであり、産科の領域に限らず、他の医療分野にも対象を広げて、このような制度を構築することが必要だと改めて痛感した次第です。
3.「医療の安全に関する研究会」は昨年(2021年)12月18日にZoomウェビナー形式で研究大会を開催しました。大会のテーマは「医療被害救済の現状と課題―無過失補償制度を中心に―」というものです。
その呼びかけ文は次の通りです。
「医療事故調査制度は本年(2021年)10月で運用開始から6年を経過します。しかし医療事故の被害者の救済については、司法手続(裁判制度)はあっても十分な機能を果たしておらず、補償制度等も十分なものとは言えません。医療事故調査にしても、医療の安全の確保にしても、医療被害者をカヤの外に置いたままでは健全な発展は期待できません。そこで研究会では、「医療被害救済の現状と課題」というテーマで大会を開催します。」
シンポジストには宮脇 正和氏(医療過誤原告の会 会長)、尾崎 孝平氏(神戸百年記念病院 医師)、柴田 義朗氏(柴田・羽賀法律事務所 弁護士)、増田 聖子氏(増田・横山法律事務所 弁護士)、山口 斉昭氏(早稲田大学法学部 教授)を招きました。
はじめに医療被害者の立場を代表して宮脇会長から、医療事故の被害者にとって裁判は大きな困難を伴うものであること、医療事故調査制度も決して十分なものではなく改善されるべきこと、無過失補償制度も現状打開の一つのカギとなること等が語られました。次に医療の担い手の立場から、尾崎医師は無過失補償制度を支える財源として外来時100円のサーチャージ(上乗せ)で600億円が確保できることや、医療行為のリスクと医療的準則について話されました。続いて弁護士の立場から、柴田弁護士は医療過誤訴訟の現状と問題点、とりわけ原告の勝訴率が下がっていること、裁判官の劣化がみられること、また、増田弁護士は産科医療補償制度の概要と現状及びこの制度の意義と課題について発表されました。最後に学者の立場から、山口教授はフランスにおける無過失補償制度についての紹介のほか、検討すべきいくつかの論点の指摘をされました。
この研究大会については、医療の安全に関する研究会のホームページの中で紹介される予定ですので御覧下さい。
4.医療過誤原告の会は、昨年(2021年)10月に30周年を迎え、記念誌『たったひとつの命にこだわって』を発行しました。宮脇会長は、記念誌発刊にあたり、「多くの皆様に支えられて発足した当会は、お陰様で30周年を迎えることができました。医療事故の教訓から学び、再発防止を推進する期待を担って2015年10月に発足した医療事故調査制度は、6年経過しましたが、全国の医療機関からの報告件数は低迷したまま推移、誠に憂うべき状況が続いています。医療事故と真摯に向きあい、被害回復・再発防止につながる公正な制度を育てていくよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。」と記しています。
そして、12月18日には30周年記念大会が開かれ、医療事故で大切な家族を失った10人の方々が、亡くなったそれぞれの方一人一人の人生・人柄・エピソードについて思い出の写真やイラストを交えて話をされました。皆様のお話を伺い、失われたものは「一件の医療事故」として取り扱われているものではなく、家族とともに普通に生活していたかけがえのない「ひとつのいのち」そのものであったということを強烈に感じさせられました。そして、多くの方々が医療被害の防止と救済を心から願っていることを再認識させられました。

今後も医療被害の防止と救済のシステムを構築すべく頑張っていきますので、ご支援・ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
 

                        2022年1月1日    加 藤 良 夫




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