あけましておめでとうございます  

 年頭にあたり、日頃のご厚情に深謝し、皆様方のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
 今年の10月で医療事故調査制度の運用開始から、満5年を迎えます。
 昨年の年頭のあいさつで日本医療安全調査機構・医療事故調査支援センターがまとめた「医療事故調査制度開始3年の動向」を拝見して、医療事故の報告件数の点とセンター調査について時間がかかっている点について若干の指摘をしました。これらの点は、昨年も概ね同じ状況を示しています。
 昨年、医療過誤訴訟の現場で弁護士として活動する中から、医療事故の被害者の置かれた状況、被告医師の不誠実さ・保身の強さ、医療界の悪弊、特に同僚かばい、相互批判の難しさの一端を改めて痛感させられました。すなわち、医師の世界では、同僚を批判することは容易ではなく、専門家の証言を得られにくいことなど、医療裁判を取り巻く状況は昔に比べ改善されてきているとは言えません。その結果、医療被害者の民事的な救済が不十分と感じさせられることもしばしばです。昔「封建性の壁」と言いましたが、医療被害者の救済を阻む壁は今でも厚く、時代が進んでも相変わらずの状況にあると感じております。
 医療事故の分析・調査・評価にあたっても、同僚の医療行為・医療内容(特に医学知識の乏しさ、医療技術のレベルの低さ)を批判することについては、とても慎重になり過ぎているように思われます。各医療機関が院内で作成する医療事故の調査報告書の中の表現の仕方についても、決して医療機関の責任が問われることのないよう、細かく神経を使っていることがうかがわれます。本来再発防止・医療安全のための事故調査であるはずなのに、あたかも自分たちの責任回避のための文書作りとなっているのではないかと感じさせられることもあります。国民の信頼を得るためにも、事故調査制度の本来の趣旨に則して、客観的で公正な事故調査がなされるよう注目し働きかけていく必要があると思っています。
 この調査制度は、責任問題と切り離して立案されました。しかし、医療者にとって責任問題を全く意識しないで医療事故の調査をすることも容易なことではなさそうです。ただ、責任問題を意識しすぎると前述の通り本来の調査制度の趣旨をゆがめることにもなりえます。
 今後この制度が責任問題と無縁に存在・発展していくことが難しい面があるとすれば、医療事故の被害者をカヤの外に置くのではなく、やはり「医療事故を防止するとともに被害者の救済を図るシステム」を構築するなど、事故調査と補償を合理的かつ有機的に関連付けて問題の解決を図る新たな仕組み作りも必要となることでしょう。
 今後も頑張っていきますので、ご支援・ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

                        2020年1月1日    加 藤 良 夫




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