2015年10月の医療事故調査制度の運用開始から3年が経過しました。
 日本医療安全調査機構・医療事故調査支援センターがまとめた「医療事故調査制度開始3年の動向」(リンク先のPDF文書3ページ目以降)を見てみると、2つの点が気になります。
 ひとつは、医療事故の報告件数についてです。報告件数については、地域間で若干の較差があり、他の地域に比して、著しく報告件数の少ない県があります。人口や病床数等に大きな違いがないのであれば、医療事故の件数乃至報告件数も同程度のものとなることが予想されます。その地域に限って広報が不足しているという事情がないとすると、支援団体のあり方等の要因が関与しているのかもしれません。
 もう一つは、センター調査について時間がかかっていることが気になります。センター調査の依頼のあった件数が78件であるのに対して、結果報告件数は11件にとどまっています。センター調査については、医療水準乃至標準的医療をどうとらえるべきか等についてのコンセンサスの形成など様々な要因から慎重を期す必要もあり、一定の時間がかかることはやむを得ない面があるとしても、よりスピーディに調査がなされその結果が遺族・医療機関に伝えられる必要があります。
 再発防止委員会の医療安全に向けた活動としては、医療機関から寄せられた「院内医療事故調査報告書」を分析検討する中から、教訓を引き出して提言をしています。これまでに中心静脈穿刺合併症に関するもの等6つの提言をまとめるなど、精力的に取り組みがなされています。こうした活動によって、同種の事故が減少していくことを願っています。
 今後、この医療事故調査制度が豊かに発展していくためには、研修等を通して病院長や支援団体関係者等が制度の趣旨を正しく理解するとともに、同僚評価のあり方等についても検討していく必要があります。
 ところで、この調査制度は、責任問題と切り離して立案されています。今後この制度が責任問題と無縁に存在・発展していくことが難しい面があるとすれば、新たに「医療の安全に資する無過失補償制度」を創設し、事故調査と補償を合理的かつ有機的に関連付けて問題の解決を図る新たな仕組み作りも必要となるのではないかと思われます。
 近時、医療被害者の民事法的な救済が不十分と感じさせられることも多いことから、「医療事故を防止するとともに被害者の救済を図るシステムを構築する」との基本方針を維持しつつ、当面は、医療裁判に多くの時間を費やしていく必要があると考えています。
 今後も頑張っていきますので、ご支援・ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。  

                        2019年1月1日    加 藤 良 夫




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