年頭にあたり、日頃のご厚情に深謝し、皆様方のご多幸を心よりお祈り申し上げます。

1. 「医療被害防止・救済システムの実現をめざす会」(仮称)準備室が発足してから14年が経過しました。この間には、2005年9月に「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が始まり、また2009年1月には産科医療補償制度の運用が開始されました。
そして「難産」の末にやっと医療法改正に伴う新しい医療事故調査制度ができ、昨年(2015年)10月1日にスタートしました。
今のところ報告件数は、予想よりも少ない状況です。
 法律の条文の中に「(死亡を)予期しなかったもの」との文言があることから、報告すべきかそうでないかについて若干の迷いが生じているのかもしれません。遺族の目から見ても、私たちの目から見ても、報告すべきと思われる医療事故が発生したにもかかわらず、当該病院がそれを報告しようとしないという例も生じています。法律上は、報告すべき医療事故にあたるかどうかは病院の管理者が判断することとなっており、この点について遺族からの事故報告、届出乃至申立のルートは予定されておりません。
2. しかし、法案化される前の厚労省の検討部会における議論の中では、遺族から事故を報告できるルートも認めるべきとの意見があり、平成25年5月29日の検討部会の取りまとめの中には、「院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第三者機関が調査を行う」。そして第三者機関のあり方についての項のBとして「遺族又は医療機関からの求めに応じて行う医療事故に係る調査」と記され、かつ、調査を申請した者(遺族や医療機関)からも負担を求める旨の記述がなされていました。医療事故調査は公益性の高いものですから、遺族に申立手数料を負担させることには賛成できませんが、検討部会における意見の取りまとめの時点では、遺族からの申し立てのルートを想定していたと理解しています。
 また取りまとめの段階では、「院内調査の報告書は遺族に十分説明のうえ、開示しなければならない」と明記されていましたが、遺族への説明の方法については、法律の条文の中には記述されず、通知によって、「口頭又は書面若しくはその双方の適切な方法により行う」「その際には遺族が希望する方法で説明するよう努める」とされ、報告書の写しの交付については努力目標とされました。
 これらについては、法案化される過程でどのような政治的な力が働いたのかは私にはわかりませんが、この事故調査制度の創設に反対乃至強い不安を有する医療側の一部の声があったのではないかと思っています。
3. 医療事故の発生は少ない方が良いことは当然ですが、仮に医療事故が発生した時、医療事故の発生を正直に報告する医療機関は、隠そうとする医療機関に比べて社会的にプラスの評価をされてしかるべきと思われます。医療事故を起こし当事者となってしまった医師等についても責任回避のために事実を曲げるよりも正直・誠実であり続ける方が寛大な対応を受けることができメリットが大きいということが実感できるようになっていくことが望ましいと思われます。そのためには、医療事故の報告と医師法第21条や刑事責任、損害賠償、行政処分の関係等についてどのような制度を設計することが良いのか早急に検討をしていくことが必要です。
4. 医療の安全を図っていくためには、当然のことながら患者・遺族の力も必要です。先に述べた通り今回の医療事故調査制度は遺族の目から見れば、誠に不十分なものと思われます。 遺族をカヤの外に置き、患者・遺族の側の声を大切にしないまま、この事故調査制度がうまく育っていくのかというと、はなはだ疑問です。
 ちなみに今回の制度では、医療の安全を図っていくためになされた事故調査の結果と遺族への補償とは全く切り離されていますが、仮に事故調査の結果(特に事実経過)を踏まえて、事案(有責性のある事案)によっては公正に示談あっせん・仲裁をするような「第三者機関」が別個にあれば、医師患者関係の修復もより円滑になされることになるでしょう。今後、事故調査が医療の安全に繋がっていくように、英知を結集して、医療事故の防止と患者・遺族への補償を一体的に実現しうる新しいシステムを作っていく必要があると思います。
5. この制度が成功するかどうかについては、医療にかかわる専門家が、医療事故とどのように向き合い、医療の質の向上のためにどのように活動していくかにかかっています。他方でこの法律が予定した「報告すべき医療事故」にあたるはずのケースについて、もし医療機関が報告しないということがあれば、そのような医療機関に対して、患者・遺族・市民の立場からきちんと批判をしていく必要があると思っています。私達も医師等に対し、医療事故調査のその先の展望を示しつつ、医療の質の向上のために心おきなく同僚評価ができるよう応援をしていきたいと思います。

 どうかご指導ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

                                 2016年1月1日    加 藤 良 夫




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