― 新しい年を迎えて ― 

2011年は、東日本大震災、原発事故、台風豪雨等により、多くのかけがえのない生命が失われ、健康が脅かされるというとんでもない事態が発生しました。
医療の安全に関しても、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の継続が一時期危ぶまれる事態となりましたが、学会等の力によって当面継続できる状況となっています。
2011年8月26日には「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」の第1回会議が開催され、12月22日までに4回の会議が行われました。これについては、日弁連の人権ニュース2011年12月1日付第50号に掲載された以下の記事をお読み下さい。

 ** 厚労省の検討会始まる **
はじめに
 多くの場合、医療を受けることによって人々は健康を回復し、幸福を享受することができますが、時には医療事故によってかえって生命や健康を失うということもあります。医療事故によって被害を受けた人は、医療側に何らかの過失があった場合には損害賠償を受けることができることもありますが、過失が認められない場合には賠償を受けることはできません。  健康保険制度の下で、一方では医療の恩恵を受ける人々がいるのに対し、医療によって深刻な被害を受けた人が何らの救済も得られないということも不公平なことです。社会連帯の考え方から、無過失であっても損害を補償する制度が整備されてしかるべきです。
これまでの日弁連の見解
 日弁連では、人権擁護委員会が2001年3月に「医療事故被害者の人権と救済」を公表しました。この中で医療事故の被害者を迅速かつ適正に救済すると共に、尊い犠牲から教訓を引き出し医療現場に速やかに還元し、医療の質の向上や安全な医療システム作りに生かしていくことの必要性を踏まえ、医療事故に関する無過失補償制度の創設を提言しています。  日弁連は2007年3月に「『医療事故無過失補償制度』の創設と基本的な枠組みに関する意見書」を公表しました。この中で、国は「被害者の救済」と「医療の安全と質の向上」を目的として無過失補償制度を創設すべきこと、そしてその基本的枠組みとしては医療事故を十分に調査して事故原因を究明し、同種事故の再発防止策を策定することなどを提言しています。  また2008年10月の人権大会において「安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言」を採択しています。この中で医療事故による被害を迅速・公正かつ適切に救済するために無過失補償制度などを整備することなどが宣言されました。  このように日弁連は「医療被害者の救済」と「安全な医療の実現」は車の両輪であると主張してきました。
厚労省の「検討会」について
 厚労省は行政改革に関する閣議決定に基づき本年(2011年)8月に「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」を設置しました。検討会の開催要項によると、「趣旨」としては、患者・家族(遺族)の救済及び医療関係者の負担軽減の観点から、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方や課題について、幅広く検討を行うものとされ、「検討課題」としては、(1)補償水準、範囲、申請、審査、支払、負担及び管理等の仕組みのあり方について、(2)医療事故の原因究明及び再発防止の仕組みのあり方について、(3)訴訟との関係について等であり、検討会は、医師、学者、弁護士、自治体関係者等16名で構成されています。
おわりに
 検討会の初日、構成員のひとりから検討会の名称の冒頭に「医療の質の向上に資する」という文言がついていることについて質問が出され、若干の意見交換がなされました。無過失補償制度が医療の質の向上につながるものでなければならないということは、患者の立場からみても医療従事者の立場からみても当然のことであり、この文言を常に念頭において、制度設計がなされるよう努力していきたいと思っています。


 2011年10月6〜7日には日弁連の人権擁護大会が高松で開かれました。初日の第三分科会のシンポジウムのテーマは、「患者の権利法の制定を求めて〜いのちと人間の尊厳を守る医療のために〜」であり、2日目の大会では「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」が満場一致で採択されました。

 「医療被害防止・救済センター」構想については、今なお実現できていませんが、医療事故の報告・調査と再発防止策の立案の仕組み、ならびに無過失補償制度の仕組みについて、医療界及び厚労省レベルで具体的に検討されるようになりました。
 今後とも、医療の質と安全を高め、被害者の救済を図るシステムの構築に向けて活動をしていきたいと思っています。
 
                                 2012年1月1日    加 藤 良 夫




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