− ごあいさつ − 

 昨年(2010年)、私は二つの医療機関の院内事故調査委員会に関わりました。ひとつは外部委員の1人として参加し、もうひとつは院内事故調査委員会に遺族 の代理人としてオブザーバー参加しました。(なおオブザーバーとして、病院長と副院長も出席していました。)
 院内事故調査委員会に関わって改めて痛感したことは、いわゆる診療関連死について解剖するシステムが必要であること、事故を起こした医療従事者は 刑事処罰を受けるかもしれないという不安を実際の状況に比してことさら強く抱いていること、事故調査委員となった医師もあまり率直な見解を述べると 責任問題に発展するのではないかと心配していることでありました。
 診療に関連して死亡したケースについて速やかに解剖し、真相究明、再発防止に向けて公正かつ客観的に調査できるシステムの整備が急務です。
ただ医療界における同僚評価は容易ではなく、大学病院等の特定機能病院内における院内事故調査委員会においても(外部委員を加えて実施しても) 同僚評価が率直に展開されているようには感じられません。
 やはり、調査システムを構築するにあたっては、どのようなケースについて刑事問題となるのか、 言い換えると、警察や検察が診療関連死について刑事事件として立件する場合のルール作りも必要であるように思われます。
 多くの医療被害者をはじめ、医療従事者の皆さんは、医療事故を調査して医療の質の向上につなげていく機関 ―医療安全調査委員会― の設置を求めています。 早く実現できるよう願っています。

 本年10月6日には高松市において日弁連の人権大会が開催されます。人権大会のシンポジウムのテーマのひとつに「患者の権利法を作ろう」(仮称)が あります。 医療を受けることができない人たちも増えています。 患者の権利を守り発展させていくためには、患者の権利の内容を法律の中で明記し、それを国の施策立案の基礎とすることが必要です。
 医療従事者の方々は患者の権利とか人権というととかく医師と患者が「対立」する構図を想定しがちですが、決してそのようなものではありません。 患者が人間らしい医療を受けるためには、医療従事者がよい労働環境のもと十分実力が発揮できることが必要です。 医療従事者が過労等により疲弊し十分に力を発揮できないとすると医療の質は低下し、患者の生命、健康(つまり患者の人権としての生命権、健康権、安全な 医療を受ける権利)に危険をもたらすことになります。
 国や自治体が患者の権利の内容を明らかにし、患者の権利を守ろうとするならば、医療従事者も「患者の権利法」の基本理念や具体的な条文を元に 国や自治体に対し、労働環境を良くするように働きかけることができることになります。

 多くの方々と共に患者の権利法をつくっていきたいと思います。
 
                                 2011年1月1日    加 藤 良 夫



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