謹 賀 新 年

 被害者の『5つの願い』を踏まえ、医療の安全・質の向上と救済のシステムの構築をめざしたい!

1.医療事故の被害者の「5つの願い」
 死亡又は重篤な後遺症を負った被害者は「5つの願い」を持っている。第1は、死んだ人を返して欲しい、もとの身体にもどして欲しいという「原状回復の願い」であり、第2は、本当のことが知りたいという「真相究明の願い」であり、第3は、反省点があれば率直に謝って欲しいという「反省謝罪の願い」であり、第4は、二度と同じ過ちは繰り返して欲しくないという「再発防止の願い」であり、第5は、きちんと償いをし、支援をして欲しいという「損害賠償の願い」である。

2.医療事故に取り組む「基本姿勢」
 医療によって思いがけず患者の生命・健康を害したときには、医療の提供者は、『隠さない、逃げない、ごまかさない』という「基本姿勢」に立って事故に至る経過とその原因、背景を検討し、被害者に対し誠実に説明責任を尽くすことが求められる。

3.院内医療事故調査委員会
 一定規模以上(300床以上)の医療機関で死亡等の重大な事故が発生した場合には、被害者の上記「5つの願い」を踏まえ、前記「基本姿勢」のもと、院内において、公正で客観的な事故調査を速やかに実施する必要がある。そのためには、内部の委員と外部の委員の割合を1対1(実際は原則として3名対3名)の割合で構成し、外部委員には、臨床能力の高い医師のほか、日頃より患者側でカルテ等の検討をしてきて調査能力のある弁護士が参画することが望まれる。このような弁護士が事故調査に加わることによって被害者側には公平感・安心感が広がり、事故調査についての信頼性も増すものと考えられるからである。  院内医療事故調査委員会の設置の趣旨は、再発防止のための教訓を引き出すことにある。したがって事故調査を遂げた上で、改善のための提言をまとめることが重要である。改善点としては、システム上の問題点にまで及ぶことが求められる。なぜなら、一見個人的なミスのように見られるケースであっても、背景事情にさかのぼってよく検討すると、チームのあり方や人員の配置、トレーニングシステム、情報の伝達等に関連することがらが浮かび上がってくるからである。さらには、医療行政上の施策の不備等が関連していると考えられるならば、それらのことについても言及がなされてしかるべきである。

4.民事責任、刑事責任、行政責任
 医療事故に伴う民事、刑事、行政上の各責任問題の処理のあり方を検討することなく医療界の自浄作用を期待することも困難である。正直に進んで真実を述べ、謝罪し、再発防止に向けた努力を重ね、賠償問題にも誠実に対応しようとしている限り、被害者はいきなり民事裁判を提起したり、刑事告訴したり、行政上の処分を求めたりすることは通常考えられない。民事、刑事、行政上の各責任問題の顕在化は、被害者がどのように感じ、どのように行動するかにかかっている。しかも被害者の行動は、事案の内容とその後の医療側の対応によって決せられる。よって、医療機関、医師は患者の思い、被害者の「5つの願い」を十分踏まえて誠実な対応をすべきである。

5.厚生労働省等の動きから
厚生労働省は、
 医療安全支援センターの設置(H15.4)
 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(H17.9)
 http://www.med-model.jp/index.html
 産科医療における無過失補償制度創設への取り組み(H19.2)
 産科医療補償制度運営組織準備室
 http://jcqhc.or.jp/html/obstetric.htm
 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会(H19.4)
 「これまでの議論の整理」2007/8/24厚労省医政局公表:
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/08/s0824-4.html
そして、国会においても医療の安全に関しては決議がなされている。
すなわち、参議院厚生労働委員会において、平成18年6月13日に、「政府は、次の事項について、適切な措置を講ずるべきである。医療事故対策については、事故の背景等について人員配置や組織・機構などの観点から調査分析を進めるとともに、医師法第21条に基づく届出制度の取扱いを含め、第三者機関による調査、紛争解決の仕組み等について必要な検討を行うこと。」 又、衆議院厚生労働委員会において、平成18年6月16日に、『「安全で質の高い医療の確保・充実に関する件」について』として「特に、志の高い医療従事者が患者の生命を救い健康を守るために、自らの技量を十分に発揮し、安心して本来の医療業務に専念できるようにしていくことが重要である。こうした観点から、地域の実情に応じた医師確保対策を講じていくことなどにより、小児救急医療・周産期医療に係る勤務医、看護職員等の労働環境の向上や医療安全の推進を図っていくとともに、医療事故等の問題が生じた際に、医療行為について第三者的な立場による調査に基づく公正な判断と問題解決がいつでも得られるような仕組み等環境を整備する必要がある。」旨の決議がなされた。

6.協働して被害者の「5つの願い」を踏まえた制度設計へ
 患者の「適正な医療を受けたい」という願いと医療者の「適正な医療を提供したい」という願いは、基本的に一致しており、協働が可能である。その確信のもと、被害者の「5つの願い」を踏まえた制度を共に構築していきたい。


参考文献 加藤良夫・後藤克幸編著『医療事故から学ぶ』(中央法規出版)


       2008年1月1日                   加 藤 良 夫


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