「医療被害防止・救済センター」構想について


1.「医療被害防止・救済センター」の目的
 このセンターは医療被害者の早期救済を図ると同時に医療現場等へ再発防止策をフィードバックすること、あわせて診療レベルの向上、医療制度の改善、患者の権利の確立等に役立つ活動をすることを目的にしています。
2.「医療被害防止・救済センター」の活動
 まず医療被害者はこのセンターにいつでも、電話、ファックス等自由な方法で相談申込ができます。
 勿論医師・医療機関・製薬会社・医療機器メーカー等も、事故情報を進んで正直にセンターへ報告することができます。

 センターは事故情報を集め分析検討し、医学教育、医療現場、メーカー等への教訓として生かします。そしてセンターが救済すべき事案であると判断したケースについてはセンターが被害者に対して補償を先行させます。加害者側が事故を隠そうとしたりすぐに改善の方策を取らなかったりする等の問題がある場合には、センターが被害者に代わって加害者側に求償を求めていきます。
3.「医療被害防止・救済センター」の組織形態
 センターの理事の過半数は患者・市民とし、「医療過誤原告の会」等医療を受ける側の人たちの声が反映されるような仕組みを作っておきます。センターの職員は一般公募方式で採用します。現在ある「医薬品機構」は厚生省の外郭団体で、職員はすべて厚生省からの出向であり、理事の多くも医薬品メーカー等の関係者で占められています。本来、医療消費者としてあるいは被害者として入ってしかるべき消費者団体や被害者団体の代表等がより一層、運営に関わっていけるようにすべきです。

 この「医薬品機構」を改革して分割再編することにより、「医療被害防止・救済センター」をつくることもひとつの考え方です。

 センターの機構としては特殊法人(法律にもとづく法人)の形態をとります。そして運用全般については常に市民オンブズマンの監視をうけることが出来る仕組みを法律の条文の中に予め入れておきます。
4.陪審制と透明性・公正さの確保
 相談を受けてから3ケ月以内に判断をすることを目途とします。迅速な救済をするために、被害の調査、判定には陪審制をとります。陪審チームは新件1件ごとに構成され、予め登録された専門家の意見をも吟味し、判定します。

 判定の透明性、公正さの確保の観点から、当事者のプライバシーを考慮しつつできる限りオープンにしていくようにします。当事者が承諾している場合は判定会への傍聴を可能にするとか、あるいは当事者の匿名性を守りつつ議事録の公開等をしていきます。
 医療関連危害情報を国民が関心を持って見ることができるように、インターネット上にホームページを開設し、どこからでもアクセス可能な状況をつくり、情報公開を押し進めていきます。ホームページでは教訓も含めて最新の情報を提供し、この社会に事故情報を隠ぺいするのではなく「過ちから学ぶ」ということを一つの大切な「文化」として作り上げていきたいと思います。
5.「医療被害防止・救済センター」の内部機構
 センターの内部機構としては、相談に応ずるチームとしてカウンセラー・精神科医等のスタッフが必要であります。このほかに陪審員を補助して医療事故になるかどうかの調査判定を援助する部門、講師として医療現場へスタッフを派遣する部門、資金運用等を担う財務的部門、求償活動を実践する弁護士等の部門、広報活動等を行う部門、より安全な医療政策を立案する部門等が必要です。
6.「医療被害防止・救済センター」の財源
 センターの財源については、自動車の自賠責保険と同様に医療事故の被害回復を図る互助の精神から、国や地方自治体の予算及び患者の一部負担金を充て、医療側・医療メーカーも利益の一部を被害救済のための基金に拠出します。製薬会社はこれまで「医薬品機構」に拠出金を負担してきたが、仮に「医薬品機構」が組織変更されても、副作用被害救済の観点から負担を継続すべきです。このほかに財源としては求償金や、寄付金等が考えられます。(医療事故情報センターでは、1998年5月30日に総会記念シンポジウム「医療被害者の救済システムを考える」を開催しました。その時の記録が冊子になっています。その冊子のP.35、P.36参照)
7.被害者は無過失のケースでも補償される
 現在の医療過誤訴訟では医療側に過失がなければ損害賠償は認められません。そのため過失の主張立証に時間を要し、いきおい訴訟が遅延しがちとなります。又医療側の過失を立証しやすいケースでは被害者は損害賠償を受けられるが、医療側に問題点が沢山あるものの、いずれをとっても過失とまではいいがたいという場合は一切賠償を認められないこととなり、時に不公平感も残すこととなります。この構想では無過失のケースでも医療行為と結果との間に因果関係があれば補償されます。このことにより医療被害者の救済が大きく拡大します。

 医療に起因して起こった大変気の毒なケースは過失があろうがなかろうが補償していくことが必要です。又損害額が低く現状においては事実上泣き寝入りにならざるを得ないケースについてもこれを放置しておいて良いわけはなく、しかるべき救済システムが必要となります。

 この構想は交通事故被害者の救済を図る自賠法や製造物による被害から消費者を保護しようとするPL法(製造物責任法)の目的・背景とほぼ共通する考え方に立っています。
8.因果関係の判定について
 医療過誤裁判では医療側の過失と原告の損害との間に因果関係がなければ請求は認められません。そのため原告側は因果関係の主張立証に苦労することが多い。元々病気のある人がその病気の自然の経過のなかで悪化して死亡したのか、医療上のミスがあったために死亡したのかをクリアカットに判定できない場合があります。陪審制度を採用する場合は科学論争的に因果関係を判定しようとすることは馴染まないので、センターが救済すべきケースかどうかについては「著しく意外な結果」かどうか等をもとに市民感覚で判断すればよいのではないかと考えます。(例えばお産の時に妊婦が亡くなったとしても、解剖の結果実は心筋梗塞で亡くなったことが判明した場合には、医師の診療行為と死との間に因果関係がないと判定されることもあり得ます。)
9.少額事件も救済される
 国民が陪審員になる仕組みは迅速な判定をめざす点でもコストの点でも有利な面があります。従って少額事件についても救済しやすくなります。少額事件がセンターに集まることは社会的にみても大変有益であります。なぜならば早期にさまざまな情報が集まれば再発防止・被害拡大防止のヒントもその中に含まれてくることにもなり医療のレベルアップ・安全な医療の実現につながるからです。そして継続的に数多くの情報を収集していくためにも、被害救済を図っていくことが不可欠であり情報収集と被害救済は一体的に実行されることが重要です。
10.責任軽減・免除の条件
医師、医療機関、製薬会社、医療機器メーカー等に過失があるケースについてはセンターが求償することもできますが、以下の3つの条件を満たした場合はその責任を軽減するか免除することができるようにします。

 第一に常日頃からまじめに医療活動・企業活動を行ってきたこと(例えばそれまでまじめに診療をしてきた人がうっかりミスをしてしまった場合は、常日頃よりいい加減なことを繰り返してきた人がミスをした時と比べて、責任非難の度合いも異なると思われます)。

 第二に速やかに被害者に謝罪すると共に、被害者がセンター等へクレームを提出する前に、加害者側が自発的かつ正直にセンターへ事故報告をして自らの失敗を社会の教訓にしようとしたこと。

 第三に真相を究明するとともに同種事故の再発防止へむけた改善策を立案し、それを実践しはじめたこと。
これら3つの条件が全て揃っている時には、センターは加害者に対して求償しないこともできることとします。

 この政策により社会の中で日頃よりまじめに仕事をすることの尊さが再認識され、医療の世界においても加害者が事故を隠ぺいしたりごまかしたりして責任回避的態度を示すという体質を変え、患者中心の医療、安全な医療、レベルの高い医療の実現に寄与できればと願っています。
11.国民の参加・監視の重要性
 「一切お任せ」の姿勢の中からは「患者中心の医療」に向けた改革は生まれてきません。
 この構想が正しく機能するためには設立までのデザインがしっかりしていることが大切であると同時に、発足後において日常的な国民の監視が重要となります。また陪審制度を採るのも、陪審制度を通して国民が身近かに医療の問題を知る機会となると考えるからです。
12.おわりに
 この構想については幸いマスコミも関心を向けて大きく報道をして下さった。(平成9年9月3日中日新聞夕刊、平成11年5月30日日経新聞朝刊、平成11年11月11日NHK「未来派宣言」)おかげで色々な意見や声が寄せられています。強く賛意を示して下さる医師・医療関係者の方々もおられ意を強くするとともに医療被害者の方々の素早い積極的な反応には、ことがらの切実さを痛感させられます。10年先にできていればと思って提案したものですが、もっと早く実現できるよう全力を尽したいと思います。この構想は一つのたたき台であり、より良いものを作り上げていくために事故防止・救済システムに関し是非アイディア等をお寄せ下さるよう希望します。

 なお、今後の予定としては、当面はこの構想についての検討を加えつつ、発起人会か準備会のような推進母体をつくっていきたい。それとともに陪審員の方々に集まっていただき、具体的なケースについて評決をしてもらう企画などを試行したいと考えています。
<参考資料>
@ 1998.5.30医療事故情報センター総会記念シンポジウム記録「医療被害者の救済システムを考える」
A NIRA研究報告書19990118 薬害等再発防止システムに関する研究(総合研究開発機構)
B 日本弁護士連合会人権擁護委員会「医療事故被害者の人権と救済」明石書店


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